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NFLアナリティクス入門(用語集、リンク集)

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アナリティクスとは、解析学、分析論の意味。一般には「膨大なデータを分析して、傾向やパターンを見出そうとする試み」のことです。近年、NFLでもアナリティクスに基づいた考え方がよく見られるようになっているので、入門編としてまとめてみました。

 

もくじ

 

 

用語解説

アナリティクスでよく扱われるスタッツ用語についてまとめました。

 

DVOA=Defense-adjusted Value Over Average

football outsidersの指標。VOAは、特定のシチュエーションでのプレーを、「平均に比べどれだけ優れていたか(劣っていたか)」で、数値化したもの。その数値を、対戦相手の強さに応じて調整する(Defense-adjusted )。

1st&10での2ヤード獲得と、3rd&1での2ヤード獲得は当然価値が違うので、ヤードのみで個人やチームを評価すると実力が見えにくい。そこでDVOAでは、「フィールド地点、ダウン&ディスタンス、点差」で状況を分類し、過去のデータから分かる平均と比べて出す数値。+20%、-10%など、「%」で表す。

対戦相手の強さによって獲得ヤードの価値も変わるので、「Defense-adjusted(相手ディフェンスによって数値を調整)」する。 平均50点のテストでの90点と、平均85点のテストでの90点では実力が違うので、「偏差値」を出して比べるのと考え方としては近い。

参照↓

What is DVOA? | Football Outsiders

 

EPA=Expected Points Added

エクスペクテッド・ポイント・アッデッド。得点期待値への寄与度。過去のデータより、ダウン&ディスタンス、フィールドポジションごとに得点への期待値を出したのがEP(エクスペクテッド・ポイント)。 ある1プレーの開始時点と終了時点のEPを比べて出した数値がEPA。

1st&10での2ヤードゲインはEPを下げるが(ダウンが進んでしまったので、2ヤード進んでも実際には守備が有利になってる)、3rd&1での2ヤードゲインはEPを上げる(よりエンドゾーンに近いポジションで1stダウンを得たので)。

EPAでは、プレー内容を獲得ヤードではなく「得点できる可能性にどの程度貢献したか」で評価するので、ランとパスの効果を比較するのに合理的。 また、ペナルティやターンオーバーによるネガティブな効果も同じ物差しで評価できるメリットもある。

例えばCBを評価する時に、「CBのマークするWRがターゲットになった時のEPA/play」を使うなどできる(いいCBほど相手EPAがマイナスになる)。 3rd&10でパス成功を許しても、5ヤードでタックルできていれば優秀。パス成功を許さなくても、DPIが多ければ失敗。EPAを基準にすれば、比較しやすい。

 

参照↓

What are Expected Points Added (EPA) in the NFL | nfelo.app

 

QBR(Total QBR)

ESPNによるQB評価の指標。EPA(Expected Points Added)をもとにして100点満点で数値化。その後、相手ディフェンスの強さ、ホームフィールドアドバンテージ、ガベージタイムを考慮して調整する。 50ポイントで標準。75ポイント以上でプロボウル級と言える。

EPAを基準にするため、パス、デザインラン、スクランブル、ターンオーバー、ペナルティ、サックなどが計測に含まれる。 前半時間ギリギリで投げたヘイルメリーがINTされたとしても、もともとの得点期待値が低い状況からのそれを失っただけであり、かつ相手の得点期待値を上げるプレーではないため、ほとんどマイナス評価されない。

従来のパサーレーティングはパスヤード、パス成功率、TD、INTによる計測のため、ランでも活躍するデュアルスレットQBの評価、比較に向いていなかった。

 

参照↓

How is Total QBR calculated? We explain our (improved) QB rating

 

WP=Win Probability

見込み勝利確率。残り時間、点差、フィールドポジション、ダウン&ディスタンスごとに過去データから勝率を参照し、それを見込み勝利確率として%で評価する。 特定のプレーの開始時点と終了時点のWPを比べる指標はWPA(Win Probability Added)。

僅差の終盤ではWPが大きく変動するので、その試合で最も重要なプレーと、その成否が可視化される。 4thダウンでの判断でも参照される。パント、FG成否、ギャンブル成否のそれぞれの場合のWPを比較して、「ギャンブル成功率が○○%以上であればGo推奨」など考える基準になる。

参照↓

Football Analytics: Win Probability and Win Probability Added | PackersTalk.com

 

PBWR=Pass Block Win Rate

パス・ブロック・ウィン・レート。パスプレーになった際に、オフェンスラインがパスラッシュに「勝った」確率。2.5秒間QBにプレッシャーがかからなければオフェンスライン側の勝ちとして計算する。ラインマン個人についても、オフェンスライン全体についても言う。

 

PRWR=Pass Rush Win Rate

パス・ラッシュ・ウィン・レート。PBWRの反対。ディフェンスのパスラッシャー側が「勝った」確率。2.5秒以内にQBにプレッシャーがかかればでパスラッシャー側の勝ちとして計算する。

 

PRP=Pass Rush Productivity

PFFより。パスラッシュ・プロダクティビティ(パスラッシュによる貢献度)。パスラッシャーのスタッツとして、サックのみでなくサック、QBヒット、QBハリーを総合的に評価した指標。数式は以下の通り。 PRP=サック+QBヒット×0.75+QBハリー×0.75/パススナップ数×100

「サックだけでなくQBへのプレッシャーを総合して評価」「数が問題ではなく率が問題(対戦相手がラン中心ならパスラッシュのスタッツは伸びないので、パススナップで割った率で評価)」という点がいかにもPFFらしい。

 

CPOE=Completion Percentage Over Expected

「想定されるパス成功率」よりも「実際のパス成功率」が優れていたかどうかを示す指標。フィールドポジション、ダウン&ディスタンス、インドアかどうかなどで状況を分類して想定成功率を決める。CPOEが高ければ、より難しいパスを正確に投げたと言える。

 


Air Yards

エア・ヤード。 パスが捕球された地点がスクリメージよりどれほど前だったかを示すスタッツ。パスヤードは、YAC(ヤード・アフター・キャッチ)が含まれるが、エア・ヤードはYACのゲインを除外して出す。

「CAY (Average Completed Air Yards) =成功したパスのエア・ヤードの平均」「IAY (Average Intended Air Yards)=狙ったエア・ヤードの平均」などの指標で、どのQBがディープに投げているかが分かる。

 

Average Separation

あるレシーバーがパスをキャッチした時に、もっとも近くにいる相手ディフェンダーまでの距離の平均。GPSを用いて測定する NextGenStatsの指標。


8+D%=Eight-plus Defenders In The Box

RBのスタッツの1つ。相手ディフェンスがボックスに8人以上の人数を割いていた(ランを警戒していた)スナップの割合。 NextGenStatsより。

 

success rate

プレー成功率。1stダウンで必要なヤードの40%ゲインした場合、2ndダウンでは残りヤードの60%、3rd、4thでは100%で「成功」として、その率を出す。特にRBが安定したランを出せているかについて見やすい指標となる。

 

Player Grades (Pro Football Focus) 

PFFグレード。Pro Football Focusによる選手評価。複数の専門スタッフが、個々の選手を1プレーごとに採点する(なので、「スタッツ」と言うよりは「評価」)。100点満点。90点以上でエリート、85点以上でプロボウル級、70点以上でスターター級。

QBの評価では、成功させるのが難しく、かつ成功させる価値があるパスを「big-time throw(ビッグ・タイム・スロー)」と呼びプラスに評価し、ターンオーバーされてもおかしくないプレーを「turnover-worthy plays(ターンオーバー・ウォージー・プレー)」と呼びマイナスに評価する。

つまり、実際にINTされてなくても「INTされて当然のパス」はマイナス査定をするということで、「スタッツに表れる結果」ではなく、「プレーの内容」を評価する、という考え方。「通して当然のパス」であれば、特にプラス査定しない。

 

リンク集①(用語集)

用語集をいくつか紹介します。上で説明した用語について、より正確に知りたい方はリンク先をチェックしてみてください。

 

Summer School 2020: A glossary of analytics terms - Big Blue View


SB Nation(スポーツニュースサイト)による用語集。新しいスタッツ用語は、ESPN、PFF、Football Outsiders、NsxtGenStatsなど各社が「独自の指標」としてアピールしてるので網羅的に見るのが難しい。この記事はそれぞれから代表的なものを紹介しているので、入門編として最適。

 

Football Outsiders Glossary | Football Outsiders

Football Outsidersによる用語集。Football Outsiders独自のデータ分析用語を多く説明。説明はやや長く、それほど見かけない用語もたくさん含まれているが、そのそれぞれが面白く、コラム的に読める。

 

PFF Signature Statistics – a glossary | NFL News, Rankings and Statistics | PFF

PFFによる用語集。各ポジションのグレードをつけるために、何を見ているか、それをどう呼ぶかなどを説明。

 

NGS | NFL Next Gen Stats

Next Gen Statsによる用語集。 それほどたくさんの用語を収録したページではないが、Next Gen独自の指標の定義について確認できる。

 

リンク集②(スタッツサイト)

実際のスタッツ、データについて閲覧できるページをいくつか紹介します。

 

 

NFL Stats by Team, Player, Position & Leaders | Sharp Football

Sharp Football Analysisのサイト。様々なスタッツを分かりやすいビジュアライズで閲覧できる各ページへのポータル。視覚的に見やすく、かつマニアックなデータも確認出来ておすすめ。(上のリンク先から、いくつか代表的なページを以下に紹介します)

 

2021 NFL QB Passer Rating: Success Rate, Yards per Attempt, Completion Rate

Sharp Football Analysisより。QBの各種スタッツ。ダウンやディスタンス、フィールドポジションなどでフィルターをかけて、パサーレーティングなどの成績を比較できる。

 

2021 NFL Offensive Situational Success Rate, Ranked by Team

Sharp Football Analysisより。オフェンスのサクセスレート(成功比率)のデータ。ラン、パス、総合と表示されている。

 

2021 NFL Defensive Success Rate Against Pass & Run, Ranked by Team

Sharp Football Analysisより。ディフェンスのサクセスレート(成功比率)のデータ。ラン、パスと表示されている。

 

2021 NFL Offensive Personnel Grouping Frequency & Usage

Sharp Football Analysisより。各チームが、オフェンスでどのパーソネルをよく使うかを示したデータ。(※12パーソネル:RB1、TE2、WR2など、スキルポジションの人数配分)

 

 

NGS | NFL Next Gen Stats

NextGenStatsのパススタッツ。Time to Throw(スナップからパスまでの時間)、Aggressiveness(タイトカバーされたターゲットへパスした確率)、Completion Percentage Above Expectation(想定されるパス成功率より上回ったかどうか)など独自の指標も確認できる。

 

NGS | NFL Next Gen Stats

NextGenStatsのランスタッツ。Efficiency (ヤードをゲインするのに、実際にどれだけ走ったか。数値が低いほど中央突破タイプの「North/South runner」と分かる)、 8+D%(相手ディフェンスがボックスに8人以上の人数を割いていた割合)など独自の指標も確認できる。

 

NGS | NFL Next Gen Stats

NextGenStatsのレシーブスタッツ。Average Separation(捕球時点でのセパレーションの平均)、Yards After Catch (YAC。捕球後にレシーバーが稼いだヤード)、YAC Above Expectation (YACが想定よりどれほど優れていたか)など。

 

 

ESPN: Serving sports fans. Anytime. Anywhere. - ESPN

ESPNのアナリティクスについてのページ。「ウィン・プロバビリティのモデルに基づけばこの場面ではFGではなくTDを狙うべきだった」という4thダウンディシジョンへの見解など、いかにもアナリティクスらしいショートコラムが並ぶ。

 

リンク集③(コラム、論説)

アナリティクスについての記事、またアナリティクスを踏まえた戦術分析記事などについていくつか紹介します。

 

The importance of pressure: It's not all about sacks | NFL News, Rankings and Statistics | PFF

PFFより。パスラッシャーを評価する時には、サックだけではなくプレッシャー、ヒットも加えて評価すべき(サックに至らなくても相手QBのパフォーマンスを下げることができているため)、とデータとともに論じている。

 

How The NFL Uses Analytics, According To The Lead Analyst Of A Super Bowl Champion

スーパーボウル52を制したイーグルスは、リーグの中でも最も積極的にアナリティクスを取り入れたチームだった。Ryan Paganetti (アナリスト、ゲーム・マネージメント・コーチ)への取材。一般誌の記事なので、アメフトマニア以外にも伝わる書き方で初心者でも読みやすい。

 

Football Outsiders Basics (a.k.a. "Pregame Show") | Football Outsiders

football outsidersの論評の「入門編」。football outsidersが過去に出してきた論評の概略が読める。「勝つ試合ではランが出せるのであって、ランが出るから勝つわけではない)」「ランディフェンスが素晴らしくても、パスディフェンスが平凡なら意味がない」など。概要を箇条書きで以下に紹介。

 

・獲得ヤードがキャリー平均で同じであれば、毎プレーコンスタントにゲインできるRBの方が、当たりはずれの大きいRB(ノーゲインやロスヤードと、ビッグゲインの両方がある選手)よりも価値が高い。(※ファーストダウン更新の価値が高い)

・オフェンスのペナルティと敗北の関係は、ディフェンスのペナルティと敗北よりも相関性が高い。(※いいパスカバーとDPIは紙一重。いいラッシュとラッシング・ザ・パサーやエンクローチメントは紙一重。それに比べると、O#のペナルティの多さは敗北に結びつきやすい。最も顕著なのはフォルス・スタート)

・ファンブルのリカバーは確かにハードワークによるものだが、その成否は実力ではなくほぼランダムと言える。(※D#がボールを弾くのは技術。また、O#がボールを守るのも技術。だが、転がったボールをどちらが拾うかは運。データ上、ある年にリカバーが優秀だったユニットが、翌年も優秀とは限らない)

・バランスの取れたデプスを構築する方が、「スターと凡人」のチームを作るよりもかなり有利。(※一部のスター選手にキャップスペースを多く割くよりも、選手層を重視すべき、と。ケガによる欠場は常に起こり得ることであり、一部に投資を集中させるのはリスキー)

 

370 Carries Revisited | Football Outsiders

Football Outsidersより。「RBはシーズンで370回以上のキャリーをすると翌年ケガをするか、目に見えて成績が低下する」とまとめた分析。(2007年の記事です)

 

We Salute You, Founding Fathers of the NFL’s Analytics Movement - The Ringer

win probability、DVOA、PFFグレードなどの指標がどのような経緯で考案されたのか、それがどのようにNFLに影響を与えるに至ったか。「アナリティクスの父」たちの逸話をまとめたコラム。読み物として楽しめる。以下に、記事の一部を箇条書きで紹介。

 

・Brian Burke(現ESPN)は2008年にイスラマバードでマリオット・ホテルの爆破テロに遭遇。帰国のためにホテルから離れる必要があるが、護衛の武装トラックを待つ間不安な時間を過ごすことに。「何か心を埋めるものが要る」と思い、ウィン・プロバビリティのチャート化を考えた。

・Aaron Schatz(football outsiders)は2002年に「ペイトリオッツはランが確立されてないので今季は勝てない」というコラムを読み、(NEファンだったので)それを否定したくてデータを漁り始めた。ランゲームをどう正しく評価するかを考えてDVOAにたどり着いた。

・Neil Hornsby(PFF)は、イギリスでNFLにハマっていた。あらゆる雑誌を読み漁り、「SIのPaul Zimmermanだけが正しい選手評価をしている」と思った。プレー内容の観察でグレードをつけるべきだ、と確信。「周囲にNFLを語れるオタク仲間がいない」から自分でPFFを創設した。

 

Seahawks couldn’t “establish the run” because there’s no such thing - Field Gulls

“establish the run”(ラン攻撃を確立せよ)という格言に対しての反証コラム。「序盤のランを多く出すことによって後半ランやパスが効きやすくなるというデータはない」と検証している。2018年の記事。

 

あとがき

できるだけ短く紹介したつもりですが、網羅しようとするあまり長い記事になってしまいました。用語の意味を知ることで、背景にある考え方を理解できると思うので、ブックマークして繰り返しご利用ください。

 

 

当ブログ内関連記事

アナリティクスやスタッツに関係する当ブログの記事をいくつか貼っておきます。

 

(解説コラムです。「ハイリスクハイリターンな賭けに出るのが合理的な理由」について、説明しています↓)

「14点ビハインドでTD決めたら2pt狙え説」【NFLアナリティクス・解説コラム】 - 鯖缶NFL三昧

 

(用語説明。短くまとめています↓)

DVOA(ディフェンス・アジャステッド・バリュー・オーバー・アベレージ)とは?【NFLスタッツ用語】 - 鯖缶NFL三昧

ANY/A(アジャステッド・ネット・ヤード・パー・アテンプト)とは?【NFLスタッツ用語】 - 鯖缶NFL三昧

EPA(エクスペクテッド・ポイント・アッデッド)とは?【NFLスタッツ用語】 - 鯖缶NFL三昧

Total QBRとは?【NFLスタッツ用語】 - 鯖缶NFL三昧

QB Gradesとは?【NFLスタッツ用語】 - 鯖缶NFL三昧

 

 

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