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「14点ビハインドでTD決めたら2pt狙え説」【NFLアナリティクス・解説コラム】

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NFLに関する記事で、終盤で14点差を追うチームがTDを決めた場合(6点取って8点ビハインドの状況)、エクストラポイントはキックではなく2ポイントを狙うべきという考え方を時々目にします。これはどういう理論なんでしょうか。以下に解説していきます。

 

要するに:(期待値が釣り合うのなら)ハイリスクハイリターンな賭けを先にする方が合理的、という話

TD後のキックが15ヤード地点に下がった(33ヤードキック)時の距離の基準は、2ptの成功率(45%ぐらい)、33ヤードキックの成功率(90%ぐらい)が期待値的に釣り合うから、と聞いたことがある。

 

「14点ビハインドでTD決めたら2pt狙え」という説を理解すると、アナリティクスコミュニティの「4thダウンでは積極的にギャンブルしろ」っていう話が理解しやすくなる気がしてる(別の話なんだけど、考え方として相似形の関係にあるというか)。めっちゃ単純な話なので説明させてください。

 

2回TDができるとして、なぜ1回目のTD後に2ptを狙った方がいいのか


14点追いつくには2TD必要なんだけど、1回目のTDで8点差になった時に2pt狙ってください。

①決まれば6点差。次のTDでキックを決めれば逆転勝ち。
②外しても8点差。次のTDで再び2ptを狙います。決まればオーバータイム。
つまり、最初に2ptを狙うデメリットは2回連続で失敗した時だけなんです。

 

話を超絶単純にするために、キックの成功率を100%、2ptの成功率を50%、オーバータイムで勝てる可能性を50%とします。

・1回目で2pt成功(50%)→勝ち(2回目でキックを選択すれば100%成功)
・1回目で2pt失敗、2回目2pt成功(25%)→オーバータイム(12.5%勝ち、12.5%負け)
・2ptを2回連続失敗(25%)→負け

→62.5%のケースで勝ちになる。

 

62.5%という数字は、2回ともキックを選択した場合(オーバータイムへ。勝利見込み50%)、2回目に2pt狙う場合(成功率50%)に比べると、明らかに有利です。「失敗したら、せっかくの追い上げモメンタムが消える」と思いますか? でも、「成功したらモメンタム爆上げ」じゃないですかね。

 

さて、もうちょっと考えましょう。2ptの成功率が40%ならどうでしょうか? キックは100%成功、オーバータイムでの勝利見込みは50%だとします。

この仮定でもやはり、「1回目のTDで2pt狙うのが有利なのです。

 

・1回目成功→勝ち(40%)
・1回目失敗、2回目成功(0.6×0.4=24%)→オーバータイム(勝ち12%、負け12%)
・2回連続失敗→負け(0.6×0.6=36%)

ということは、40+12=52%勝ち、と。2回ともキックでオーバータイムに持ち込むよりも、やはり1回目のTD後に2pt狙う方が有利だと分かります。

 

1%程度の差が重要かどうか


さて、ここまでの議論は、「14点ビハインドの状況でTDが2回できるとして」というかなり都合のいい仮定の上で、2ptとキックをどちらを選択したらいいか、という話をしただけです。「1回目のTDで2pt狙う方が有利」というだけで、もちろん62.5%勝てるわけじゃありません。

 

実際には、

①残り時間に応じてオンサイドキックを決めるなり、相手の攻撃を3&OUTに終わらせるなりしてもう一度ボールの保持権を得る
②時間以内にTDを決める
という2つの条件を満たすのが難しいので、「1回目のTDで2pt蹴る方が有利」の有利さは1%程度しか勝敗に影響を与えないことが多いです。

 

「1%の違い」を大きいとみるかどうかは素人の僕には判断できませんし、その1%というのもいろんな「仮定」で出した数字なのですが… ただ、もし選択肢が2つあって、片方が明らかに有利ならそっちを選ばない理由はないな、と思います。1ヤードの違いにこだわるんだから、1%にもこだわるべき、というか。

 

この「14点ビハインドでTD決めたら2pt狙え説」を僕が個人的に好きなのは、確率で優劣を考えることが比較的納得しやすいからです。実際の試合の中で「4th&2をコンバージョンできるか」って、自信のあるプレーがあるなら「Go」だし、確率というよりは勝負の呼吸かなあ、と。

 

 

この考え方を理解すると、類似ケースも理解できる

 

「14点ビハインドでTD決めたら2pt狙え説」の姉妹編、「10点ビハインドでTD決めたら2pt狙え説」もあります。

10点ビハインドからTD決めて4点差。ここで2ptを狙うのです。
・成功したら2点差→次にFGで逆転できる
・失敗したら4点差→次もTDを狙う。

「ハイリスクな賭けにまず挑めば、成功したら次は堅実な選択ができ、失敗してもリカバリーのチャンスがある」という意味では同じです。

 

さて、かなり単純化した乱暴な話でしたが、「期待値の釣り合う2つの選択肢があるなら、ハイリスクハイリターンな方を先に挑んだ方が合理的」という考え方を理解しやすいモデルケースかな、と思って紹介しました。

 

そうすると、「1stダウンではパスを投げろ(ランはショートヤーデージの時だけでOK」「4thダウンはGoが有利な場面が多い(FGやパントは勝ち確定の場面だけでいい)」のようなアナリティクスコミュニティからよく言われる言説が、理解しやすくなるように思います。

 

 

(参考記事。ここまでの話を踏まえた上で読むと分かりやすいかと思います)

Going for Two Down 14 | Football Outsiders

 

たかが数字、みたいな話

ここまで書いておいてアレなんですが、僕自身は「序盤での4thダウンでの保守的な判断(パントやFG)」が結構好きだったりします(以下、蛇足かつ脱線しますが話を続けます)。

 

そもそも、4thダウンでギャンブルするかを、確率で決めることはある意味滑稽な話じゃないですか。例えば4thダウンで、フェイクパントをするときのことを想像してみましょう。フェイクパントの成功率、あんまり確率で語っても意味なくないですか。「相手の意表を突く」「度胸よくコールする」「ミスせずに遂行する」が揃えば成功ですし、そもそもフェイクパントがバレてたら成功しないだけの話。「この局面ならフェイクパント35%成功」とか言う人あんまりいないですよね。

 

フェイクパントでなくて、普通のオフェンスユニットのプレーでも基本的には同じことだと思います。「相手の意表をつく(読みを外す)」か、「相手に読まれたとしても成功させる(パワーかスピードか、スキルで勝つ)」ことができるプレーがあるなら、どんな4thダウンでも「Go」すべきですし、そんな自信がないなら素直にパントすればいいんです。確率ではなくて、「決める自信があるかどうか」でGoかどうかの判断するHCの方が強そうじゃないですか?

 

消極的判断が有利なケース

期待値が釣り合っているケースでも、4thダウンの判断で(パントやFGの)ローリスクローリターンな選択が有利なことももちろんあります。例えば、4Qで同点のケースを考えてみましょう。

 

敵陣レッドゾーン、2ヤード地点での4th&goalを想定します。話を分かりやすくするために、ここでFGを選択したら成功率100%、TDを狙ったら成功率50%とします。また、話の都合上、試合終了まで自分と相手のポゼッションはそれぞれ2回ずつ、とします。

 

ここでFGを蹴れば3点。TDを狙えば、7点の50%ですから、期待値は3.5点。さらに、もし失敗したとしても相手に2ヤード地点からの攻撃開始を強いることができるため、相手の得点期待値を(25ヤードでの攻撃開始と比較して)下げることもできるので、TD狙いが圧倒的に有利なことは明らかです。

 

ですが、もしも相手が試合終了まで1点も取れないのであれば、話は変わってきます。その前提では、FGの3点で勝ち確定なわけです。試合終了までに2回チャンスがあるとして、唯一の負け筋はTD狙いを2回失敗した時(0点で、オーバータイムになってしまう)だけ。


つまりこういうことです。「2回のポゼッションで何点取れるか?」を考えるなら、最大値も平均値も「TD狙い」が合理的ですが、「あと1点取れば勝ち」なら「FG狙い」を選択すべきです。

 

話を単純化するために雑な仮定をしましたが、何を確認したかったかと言えば、「ディフェンスで失点を抑えられるかどうかで最適解は変わってくる」ということだけ確認できたら十分です。要するに、確率計算をする前に、その前提となる自軍と相手軍の実力、強みと弱点を正確に評価する方が重要、という話。

 

試合終盤のケースがイメージしやすいので例に出しましたが、試合序盤でも考え方は同じでしょう。もしもディフェンスに自信があるなら、あるいは僅差で終盤で最後の1ドライブの遂行力で勝てる、と自信があるなら、TDではなくFGを蹴ればいい(試合展開がどうなるか分からないからこそ、得点期待値に沿った判断が合理的なようにも思うので、さすがに僕もFGを蹴る保守的判断が「合理的」だとまでは思いませんが)。

 

「序盤で相手の力を測り、中盤で戦術をアジャストし、終盤の読み合いで上回って勝利を確実にする」という王道のような勝ち方や、「不利な戦力差でもなんとか点差を離されずについていき、相手のミスを待ってワンチャンスをものにする」という粘り強い勝ち方。それを狙うなら、「序盤で大差がつく展開を避けるために、FGやパントを選択」というのも理解できます。

 

されど数字、みたいな話

とはいえ、「統計による戦術サジェスト」という枠組み自体は僕は好きです。「アメフトの中から、何が再現性のある事象なのかを取り出していく試み」と捉えると、勝利への執念を感じるじゃないですか。数字を根拠にする、ということは、「ノウハウ」を鍛える、ということだと思います。

 

4thダウンディシジョンでも、選択Aと選択Bの優劣を比べる時に、HCの勝負勘や経験則を信じるのもロマンがありますが、「数字を根拠にする」というのもロマンがあります。HCの才能に頼るよりも、「演算方法の改善」にチームの命運を懸けるのも面白いです。

 

試合中の判断でなく、チーム作りであればなおさらです。より勝敗に影響があるポジションに厚めに投資したり、得点期待値を上げるプレーへの練習時間を増やしたり。プレーアクションが効果的なオフェンスであることは誰でも知っていますが、それが「どんな時に」「どの程度」有効なのかを、どう評価するか。数値化して考えようとするのは、チームとして強いような気がします。

 

あとがき

さて、コラムはここでおしまいにします。ありきたりな受け売りと、素人考えの的外れが含まれていたと思いますが、ご容赦ください。

 

 

(アナリティクスの用語についてまとめた入門記事です。合わせてご利用ください↓)

nfl.savacan3rd.com

 

 

 

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