NFLのペイトリオッツを応援してる。相当熱心に。9月にリーグが開幕すると、僕の生活はNFL中心になる。
月曜早朝(現地日曜昼)からの観戦に備えて予定を調整し、通勤や家事の途中には試合を振り返ったり予想したりするポッドキャストを聞き、トイレではスマホでファンタジーフットボールの注目選手をチェックする。
ペイトリオッツの試合になると、PCの前にかじりついて、文字通り身をねじるようにして観戦する。興奮しすぎるのを抑えるために、攻守交替のCM中にはロシア文学まで読み始めたりする。不条理なのめり込み方だ。
何でこんなことになったのか。振り返って、自己紹介がわりにまとめてみた。
- 第一印象は「いけ好かないスポーツ」(小学5年生の頃)
- NBAにハマる(中学生の頃)
- 「アイシールド21」にハマる(20代の最後の頃)
- NFL、トム・ブレイディを見る(2012年1月)
- トム・ブレイディに本格的に惚れる(2013シーズンweek6)
- ゲームパスに加入する(2014~)
- おわりに
第一印象は「いけ好かないスポーツ」(小学5年生の頃)
たぶん、小学5年の頃。父がテレビで見てた謎のスポーツを横から見てた。置かれたボールをはさんで、左右に選手たちが並び、やがて1人だけジョギングしてポジションを変える。プレーが始まったと思ったら、割とすぐ終わる。もう一度並び直して、その繰り返し。
やがて父が得意げに、「これアメフトって言うんだ。すごい駆け引きがあって面白いんだぞ」みたいなことを言う。今から思えば、その時の父のドヤ顔が、僕をアメフトから遠ざけた。父への反発心を感じ始める年頃だった僕は、「アメフトを知ってる俺は、アメフトを知らないお前より偉い」みたいなニュアンスを感じ取って、僕はその面白さを知ろうとせずにスルーした。
NBAにハマる(中学生の頃)
父に対しては素直じゃなかった僕も、NBAは結構ベタなルートでハマる。バルセロナ五輪バスケットボールの「ドリームチーム」だ。コート外に座った対戦国の控え選手が、試合中なのに思わず写真を撮ってしまうほどの実力差。スター集団。
それがきっかけでNBAにも興味を持ち、BSを録画して見たり、雑誌を買って同じポジションのスター選手の能力比較を夢中になって読んだりするようになる。マイケル・ジョーダンは別格の存在で、今のように「神」という言葉が乱発されることのなかった当時でも、ジョーダンだけは神の名にふさわしいように思えた。
僕が好きだったのはチャールズ・バークレーで、「豪快なキャラとプレー」に「クレバーさ、繊細なシュートタッチ(案外3ポイントも得意だった)」を持った選手だ。サンズ対ブルズのファイナルは、「神vs王」みたいに思って盛り上がった。(その頃が僕のNBA熱のピークで、今から思うとレジェンドたちを目撃できて幸運だった)
「アイシールド21」にハマる(20代の最後の頃)
マンガ「アイシールド21」は、週間少年ジャンプのヒット作なわけで、本質的には「シンプルなスポ根もの」であるのは間違いない。努力は報われて、チームメイトやライバルたちとは闘った者同士の信頼関係が生まれる。読んで損した、と思わせない王道の満足感。
(↑Amazonのリンクです。未読の方はぜひ)
だけど、この作品が僕にとってただの「面白いマンガ」というだけでなく、「好きなマンガ」となったのは、「はみ出し者たちの再起の物語」だったからだと思う。
「逃げ足だけ速いいじめられっ子」「キャッチ以外はヘタな野球少年」「負けず嫌いの不良少年」などという、いわばはみ出し者の面々が、アメフトの中で役割を見つけて、活躍していく展開に、夢中になった。恥ずかしい話、感情移入した。
大学に入って以降の僕は演劇と映画に青春を費やし、その後就職もせず、というか進級すらままならず、社会に居場所を見つけられないまま大学を辞めて、要するにどっぷりとモラトリウムを味わい続けていた。
自分の劇団のメンバーや、コールセンターの夜勤バイトの仲間が就職しても、自分はダラダラと芸術家志望を続けた。人生に不安はそれほどなく、「僕は天才のはずなのに、どうしてそれが発揮できないんだ」というのが主な悩み。要するに人生にピンときていなかった。贅沢なものだ。
そんな僕も、27歳ぐらいになるとようやく「ひょっとしたら僕は天才じゃないかもしれないから、社会に居場所を見つけなくちゃいけないんやないか」と思い始める。そんな僕が出した結論はというと「最後にもう1本映画を作ってみよう」というもので、我ながら苦笑を禁じえない。
それでも当時の僕としては真剣だった。いろいろ考えた挙句に、「カメラとパソコンを車(レンタカー)に積んで、映画を撮りながら旅を続ける。映画が完成するまでは帰らない」という陳腐な決意をした(繰り返すけど、本人としては何かに真剣になってるつもり)。
そんな僕が、旅先のコインランドリーで出会ったのが「アイシールド21」だ。少年ジャンプで5~6話読んで、漫画喫茶に泊まって1巻から読み直した。
「大人になること」から逃げて映画作りの旅に出て、その映画作りからも逃避して読んだマンガ。そんなタイミングで読めば、心にしみてしまうんである。
NFL、トム・ブレイディを見る(2012年1月)
「アイシールド21」を好きになっても、すぐにアメフト、NFLにハマるわけではなかった(マンガを読んですぐハマるんなら、僕は今頃仏教徒になってる)。
僕がNFLと出会ったのは、2011シーズンのプレーオフだ。NHKBSで放送されることに気づいて、録画して数試合見た。ハードディスクに録画したら、副音声で再生できることに気づいて、「英語の勉強のつもり」で見たのだ。
これは、中学の頃のNBA好きが遠く影響していて、当時僕はNBAを英語放送で見てた。正直言うと、まったく英語は聞き取れなかったんだけど、「英語の勉強」と言って見ていれば、母から「いい加減消しなさい」と言われずにNBAを見放題だったから。
「アイシールド21」にハマった時の話で恥ずかしい自分語りをしたのを続けるけど、30代になった僕は「映像翻訳」に挑戦することに決めた。大学受験の時に英語は得意科目だったけど、大学入学以降はほぼ1秒たりとも勉強していなかった。それなのにプロの翻訳者を30代から目指すなんて、(控えめに言っても)なかなか大胆な人生設計だ。
それで、まあ案の定行き詰まってた時期に、NFLと出会った。(思うんだけど、何かにハマる時というのは、何かに行き詰まってる時なんじゃないか)
「アイシールド21」を読んでいたから、試合の流れは分かってたけど、細かいルールは知らないし、どの選手もどのチームも知らない状態で見て、それでもトム・ブレイディの佇まいはカッコいいと思った。
ナイスパスを通した後でも、喜んだりせずにすぐに次のプレーを指示しながらスナップ位置まで進む姿。オフェンスがうまくいかずにベンチに戻って、ちょっとだけキレたようなテンションで手を組んで座って、ディフェンスのプレーに一喜一憂せずに、次の出番のために黙って集中する姿。冷静さを通り越して冷酷な雰囲気がイカしてる感じがした。
試合の内容とかは正直よく覚えてないんだけど、僕がシビれたのはAFCチャンピオンシップのレイブンズ対ペイトリオッツ。4Qで4点差を追うペイトリオッツが、レイブンズ陣内深くに攻め込んで残り1ヤード。でもレイブンズは踏ん張って4thダウンに。FGを蹴らずにペイトリオッツが選んだプレーは、QBブレイディがゴールラインにダイブするという、この世で最もシンプルなプレー。
解説でも、もっぱら「クレバーな選手」と言われていて、僕自身も試合を見ながらブレイディのポーカーフェイスっぷりにハマっていった中での、「正気とは思えないほどド直球の根性プレー」「感情をあらわにして、何か吠えながらボールを叩きつけるセレブレーション」という流れに圧倒されたんだと思う。僕がNFLと「出会った」のはこの瞬間だ。
この年のスーパーボウル(ペイトリオッツがジャイアンツに敗戦)は不思議なことにそれほど覚えてない。でも、「ペイトリオッツは王者に値したはずなのに、その通りの結果にはならなかった」という漠然とした感想を持った気がする。
トム・ブレイディに本格的に惚れる(2013シーズンweek6)
さて、そんな僕でもトム・ブレイディに完全に惚れ込むにはもう少しの時間が必要だった。
2012シーズンは、NHKBSの放送(当時は週3~4試合を放送してくれた)を録画して、副音声の英語実況で見るのを楽しみにしていた。
翻訳の勉強は続けており、その勉強の合間の楽しみにしていた。「15分勉強をしたら、NFLを2ドライブ見る」というマイルールを作って、会社に出るまでの早朝に少しずつ観戦した。アメフトは、もちろん試合のモメンタムは大きな要素ではあるもの、状況がデジタルに記述される(残り時間、点差、ボールの保持権がはっきりしてる)ので、途中で止めながら見ても楽しめるのが、当時の僕にとっては好都合だった。
もちろん面白いと思うから見続けてたんだけど、NHKBSでやる放送を消化するだけで、特定のチームの情報を追いかけることもなく、今から思えば、そこまでのめり込んで見ていたわけではなかった。
そんな僕が、ペイトリオッツとブレイディに完全に惚れ込んだのが2013シーズンweek6のセインツ戦だった。
27対23でペイトリオッツは4点を追うラストドライブ。ブレイディに残された時間は1分13秒、タイムアウトなし、自陣30ヤード地点からの1st&10だ。
最初のプレーで中央に23ヤードのパスを通し、セインツ陣内47ヤードまでボールを進める。インバウンズでのキャッチだから時計は止まらない。残り53秒。再び中央にパス。セインツ陣内32ヤード地点まで瞬く間に進んだが、やはり時計は止まらない。ブレイディは次のスナップ地点に進みながら、オフェンスに指示を出してる。スパイクだ。ああ、やっと時計が止まる、と思ってると、スパイクはフェイクで、ブレイディは右サイドライン際に速いパス。6ヤードゲインして、パスを受けたWRはアウト・オブ・バウンズへ。これでも時計は止まる。スパイクよりもいい。
残り35秒。あと26ヤード。守備のセインツもタイムアウトは残していない。エンドゾーン直前の場所までのパスが2本続く。タイミングもコントロールも完璧に見えたがインコンプリート。4th&4。残り24秒。セインツもペイトリオッツも両チームが崖っぷちだ。
4thダウンのプレーが試合ラストのプレーになるかと思いきや、今度はエンドゾーンは狙わず、浅いパスで1stダウンを取る。でも、インバウンズでダウン。時計は止まらない。ブレイディ、今度はスパイク。残り10秒で時計が止まる。あと17ヤード。そして、次のスナップでエンドゾーン左奥へのパスが通り、逆転ドライブが美しく完成した。
僕は、このドライブで完全にペイトリオッツとトム・ブレイディのファンになった。このドライブに、アメフトの魅力が凝縮されている、と思った。
おそらく、フェイクスパイクを見たのもこの時が始めてだ。ドライブが始まってからインバウンズへの2回のパス成功で、ペイトリオッツオフェンスは一度もハドルを組んでいない。それにも関わらず、フェイクスパイクの意図が伝わるなんて、すごい。事前の決まりごとと、暗号、その場での即興的判断を組み合わせで、11人全員が自分のやるべきことを理解している。そして、そのことのすごみが、ミーハー観戦者の僕でもはっきりと分かる。インプレーの間だけでなく、次のスナップのために隊形を組む動きにもまったく無駄がない。(たぶん、他のチームスポーツでもトップクラスのチームは全員が戦術理解度が高いんだろうけど、それが目に見えるのがアメフトのよくできたところだと思う)
実は、このラストドライブの前のペイトリオッツオフェンスは「自陣での4thダウンギャンブル失敗」と「ロングパス被インターセプト」だった。試合残り3分を切ってから、ほぼ絶望的なミスを2回していたのだ。それでも、可能性が残されている限りは集中を切らさない、というメンタリティが、勝者にふさわしいように僕には思えた。「勝者にふさわしい彼らが、勝者になってほしい」と、一気にファンになった。
(ハイライト動画の、リンクを貼り付けておきます↓)
Saints @ Patriots 2013 (Week Six) - YouTube
ゲームパスに加入する(2014~)
さて、それまでは「アメフトって面白いな」と思ってみていた僕が、「ペイトリオッツかっこいいな、勝ってほしいな」と思うように変わった。それまではNHKBSでやる試合だけを録画して楽しんでいれば満足だった観戦生活が、自分から積極的に情報収集するように変わっていく。
「ファン」になることで、なるべくリアルタイムで情報を追いたくなる。今週の相手はどこで、ランが強いのかパスが強いのか。けが人の具合はどうか。アナリストの予想は? など、「芋づる式」に気になることが出てくる。試合当日は、ツイッターでのコメントで経過を追い、一喜一憂した。
そうすると、「ブレイディはキャリアの晩年であり、もう全盛期は過ぎつつある」という情報を目にするようになる。
「ひょっとしたら、この1年がブレイディにとって最後の1年になるかもしれない」という思いが、僕の背中を押して、ゲームパスに加入した。確か、日本円だと3万円強だった。決して安い買い物ではない。「せっかくだから」と、なるべくたくさんの試合を観るようになった。
そうすると、ペイトリオッツやブレイディをますます好きになると同時に、「他のチームや選手もほとんど同じぐらいすごい」ということが分かるようになってくる。
特に、同じAFCのライバルチームはよく見た。ペイトリオッツとシード順争いをしてるチームの試合を見て、「ライバルチームの相手チーム」を応援するのは面白かった。でも、見てる間に、負けを願ってたはずのライバルチームがカッコよく思えてくる。誘拐された被害者が、誘拐犯を好きになってしまう「ストックホルム症候群」のように、なかなか負けてくれないライバルチームにも、グッときた(2015年のブロンコス、2017年のスティーラーズなど、勝負強さがイケてた)。
ものすごく負けず嫌いで、自分が一番という強烈なメンタリティを持った選手たちが、自分のエゴを内に秘めて、高度なチームプレーに徹する世界。そのチームプレーを上回るような、異次元の個人技が時々出る展開。積み上げた戦略が、1つのミスで台なしになる不条理。それでも自分たちを鼓舞して闘うチームの姿。そのどれもが、強烈な磁力で僕を引きつけた。
おわりに
さて、僕がペイトリオッツにハマった過程はだいたい思い出せた。
「今季が最後かも」と思って追いかけ始めた時から、ブレイディは3回スーパーボウルを制覇した。どのSBも最高にシビれる試合だった。ポストシーズンで負けた2試合は、2015シーズンAFCチャンピオンシップでのブロンコス戦と、2017シーズンSBでのイーグルス戦。どちらも最高の試合だった。デフレートゲートのスキャンダルでハラハラしたのも、ある意味最高だった。
英語&翻訳の勉強に行き詰まって、そこから逃避するようにハマったNFLだけど、結果的には英語力をグンと伸ばすことになった。NFLの情報を追いかけるようになってから、「英語を使っての検索、調べ物」が日常になり、英語を読むスピードも上がる。すると、英語を読む量が増えて、さらに速読力もあがる、という好循環に自分を放り込むことができた。
そのおかげもあって映像翻訳の仕事も始められるようになった。まだ「家族を養える」ほどの稼ぎは出せてないけど、スクールに通ってた頃の10倍の速度で翻訳ができるようになった。
去年からは趣味としてこのブログを始めた。自分で読むだけでなく、翻訳して紹介するとなると、わからないことを噛み砕いて理解する必要が出てくる。アメフトの深さをどっしりと味わえて、ますます観戦が楽しくなる。
ブレイディは、あとどれだけプレーするんだろう。今季が最後かもしれない。次の試合が最後かもしれない。勝ち逃げするように栄冠を得て引退してほしい気もするし、ボロボロになって無様に倒されるまで戦ってほしい気もする。いずれにせよ見届けるつもりだ。
ブレイディが引退したら、僕のNFL熱も一段落するんだろうか。カレッジフットボールを追いかけてみるのも面白そうだし、またNBAにハマってもいい。あるいは、日本国内のアメフトを生観戦してみようか。それとも、ペイトリオッツに次のスターが現れて、相変わらず身をよじるようにして見続けるのかもしれない。
(以上です。こんな長文、最後まで読んでくださった方がいたらうれしいです)
(2019年に書いたコラムですが、この時の僕はブレイディが移籍することも、移籍先でスーパーボウル制覇することも知らないと思うと感慨深いです)
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(NFLブログとは別に、エッセイブログをやっているのですが、さらに赤裸々に自分の半生をまとめた記事があります。よかったら読んでください↓)