スーパーボウル55は9対31でバッカニアーズがチーフスに勝利し、NFL2020シーズンの王者となりました。試合を見ての感想をまとめながら振り返りたいと思います。
(もくじ)
ブレイディ対マホームズ
スーパーボウルのカードが、チーフス対バッカニアーズに決まった時に、両チームのQBを引き合いに出し、「新旧GOAT対決」と盛り上がりました。僕自身もこのQB対決を「羽生善治対藤井聡太」と、将棋界の至宝2人に例えました。
キャリア6回の優勝経験のある「史上最高QB」のトム・ブレイディ。昨季王者で、先発3年目にしてプレーオフほぼ負け知らず、「現役最高QB」のパトリック・マホームズ。「20年に1人の才能」の対決が実現する、と。
しかし、真に注目すべきは2人の年齢差や実績ではなく、QBとしてのスタイルが対照的なことかもしれません。
マホームズは、「まさか」と思うようなプレーを決める"異次元のディファレンスメーカー"でしょう。NFLの実況では"make something out of nothing(=無から何かを作り出す)"とよく伝えますが、マホームズは、「並のQBならサックされてるはず」の状況から「逃げ出すだけでもすごいのに、しばしばファーストダウンやタッチダウンを決める」ことのできるQBです。
「能力があるから、多少雑なプレーでもなんとかなる」では並のプレーヤーでしょう。マホームズの場合、「能力があるからこそ賢明な判断をする余裕がある。判断力があるからこそ能力が生きる」という好循環がある気がします。
対するブレイディは、"至高のゲームマネジャー"と言えるのではないでしょうか。通常、QBをゲームマネジャーと呼ぶのは褒め言葉ではありません。「ミスを避け試合を作れるQB」ですが、逆に言うと自ら状況を打開するような難しいプレーは期待できない。そんなQB像を指す言葉が「ゲームマネジャー」です。しかし、「ゲームマネジャー」としてのQBを突き詰めていけば、それこそが最強の武器となる、それがブレイディという選手ではないでしょうか。
この試合は、結果的には3ポゼッション差の大差となりましたが、"異次元のディファレンスメーカー"対"至高のゲームマネジャー"という、それぞれのQBの魅力は十分に発揮されていたように思います。
(試合のハイライト動画を貼り付けておきます。YouTubeに飛べば再生できるはずです↓)
https://www.youtube.com/watch?v=Gz5-NQROQGw
印象に残ったシーン
序盤のマホームズは、(ケガの影響で100%の状態ではなかったにも関わらず)自らの足でファーストダウン更新するシーンを何度か見せてくれました。ポケットから出るタイミング、ダウンフィールドを睨みながらランを選択するタイミングに、判断のよさ、判断の早さが現れています。
そして、2Qで3対7の4点ビハインドを負った状況で自陣1ヤード地点でのプレー。直前にディフェンスがゴールラインスタンドを見せ、無失点でボールを取り返した状況でした。
後ろにリズミカルに下がりながら、ややノールック気味に、ややサイドスロー気味にWRヒルに通したパスの滑らかさは見返すと鳥肌もの。この、「どんな体勢からでも正確なパス」という能力は、まさに価千金でしょう。「ちゃんとした姿勢を取り直してから投げる」ではなく、「動きの中でどんぴしゃのタイミングで投げる」ができるのなら、1人で0.5秒の時間を常に稼いでいるようなものです。
4Q、ほとんど絶体絶命とも言えるゲーム状況でマホームズが見せた執念も見事でした。9対31の22点差。どうしてもタッチダウンがほしい状況で残り14分半、バックス陣内12ヤードまで進みます。1stダウンはランでほぼノーゲイン。そこから2nd、3rd、4thと、バックスの容赦ないパスラッシュから逃げて、ほとんど捕まりかけた状況から「あわやTD」というパスを3連続で投げました。(試合後の現地番組では、「史上最高のパスインコンプリート」と言われていて、それもうなずけます)
対するブレイディも"至高のゲームマネジャー"と呼ぶにふさわしいプレーだったと思います。少しの有利を優勢に、優勢な状況で崩れずに勝勢に持ち込む。ゲーム展開に合わせた選択をし続けたと思います。
ブレイディの強みは、「いろんな勝ち方を知っている」ということ。「自分たちの最強の武器」で戦うのではなく、「相手チームとの力関係のなかで勝てる可能性の高い武器」で戦えるということです。このゲームでも、ランを積極的に組み込みました。ブレイディの投げた3つのTDパスは、どれもプレーアクションでランを見せたものです。
もう1つ。「相手のミス、不運につけこむ」のもブレイディの勝負強さ。前半2つ目のTDは、FGで終わったはずがチーフスの反則でドライブが継続して生まれたものですし、前半終了間際のTDドライブも、チーフスのペナルティにつけこんだものでした。バックス陣内38ヤード地点で残り43秒、3rd&2でのタイムアウト取得というアンディ・リードの判断も、ミスと言っていいでしょう。
相手が「しまった」「ヤバい」と思っている状況で、憎らしいほど冷静に自分たちのプレーを決めてしまう。あらかじめ、メンタルの準備が出来ているからこそのプレーではないでしょうか。
3QのフォーネットのTDランは、プレークロック残り11秒でのスナップでした。このドライブの序盤では、プレークロックギリギリまで時間を使っていましたが、チーフス陣内に入ってから「ちょっと早め」のタイミングでのスナップ。チーフス守備陣の気合をいなすような攻撃で、老獪さを見せました。
ブレイディの試合巧者ぶりが、チーム全体に広がっていき、1つの生物のように機能する。シーズンの集大成とも言っていいドライブだったと思います。
シーズンを闘い抜くということ
さて、ここまでマホームズ対ブレイディ、というQB対決に注目して振り返ってきましたが、これはもちろんアメフトの表層的な一面にすぎません。
実際には、マホームズ率いるチーフスオフェンスを見事に止めたバッカニアーズディフェンスが、最大の功労者であることは間違いありません。試合直後のツイートや記事でも、「本当のMVPはブレイディではなく(DCの)トッド・ボウルズだ」という言及を多く目にしました。
ディフェンスは、ユニットのどこかに弱点があればそこを突かれてしまうので、特定の選手というよりはディフェンス全体の勝利、という意味でディフェンシブ・コーディネーターのトッド・ボウルズを称える文脈かと思います。
バッカニアーズのディフェンスは、レギュラーシーズンからゲーム内でのアジャストがよく機能していました。失点ランキングでバックスは32チーム中7位ですが、試合の前半のみのランクングでは20位、後半だと4位だったのです(※相手チームに許した得点が少ないほうが上位)。これはトッド・ボウルズの力と言っていいかもしれません。
参考↓
NFL Football Stats - NFL Team Opponent 2nd Half Points/Game on TeamRankings.com
レギュラーシーズンで敗れたチーフス相手に、プランを修正して臨み、最後まで遂行しきったのは見事と言うしかありません。
ディフェンスがチームを牽引したプレーオフ。この快進撃の、最後のシンボルになったのはDTビータ・ベアのチャンピオンシップでの復帰でしょうか。week5に負傷し、シーズンエンドと思われたベアが、ギリギリ間に合うと信じてリハビリに励んだ努力が結実したのは、まさに優勝するチームにふさわしいエピソードだと思います。
'You keep winning, I'll show up.'(勝ち続けてくれ。そうすれば俺は戻ってくる)と彼は言い続けたと言います。そしてその言葉の通りにフィールドに戻り、スーパーボウル勝利に大きく貢献したのです。
参考↓
DL Vea on Return from Injury, Tampa Bay's Postseason Run to SB 55
ベア、スーと並んだインサイドからの圧力があったからこそ、JPPとバレットがアウトサイドから暴れられた。4人で十分なプレッシャーをかけられたからこそ、パスカバーが不利な状況に陥らず、試合を通じてマホームズを苦しめることができた。
オフェンスも同様に、チームでの勝利でした。タッチダウンを決めたのはTEグロンカウスキー、WRアントニオ・ブラウン、RBフォーネットという新規加入組でしたが、これは彼らが3番手、4番手の武器だったからこその活躍でしょう。序盤の拮抗時に流れを引き寄せたのは、WRエバンスが誘ったペナルティでした。彼が1対1で必ず優勢に立っていたのがよく効きました。
シーズンを通して、止まらずに強くなっていったバッカニアーズが見事に勝利を得た、というスーパボウルだったのではないでしょうか。
やはり、今年もマンガを超えた
さて、スーパーボウルを終えて思うのは、「今年もマンガを超えた」でしょうか。一発勝負で勝者を決めるトーナメント式のプレーオフ。チームの力の差は紙一重で、どのチームが勝ち残っても「そのシーズンの主役にふさわしい」と思えるフォーマット。
チーム力が拮抗しているからこそ、それに差をつけられる「個人の才能」が勝敗を分ける。そのことが可視化されるアメフトというスポーツのエンタメ性。
そして、競争原理が常に働くハードキャップ制。そこでロースターに生き残り続ける、「全員が怪物」というリーグだからこそ、その力を最大化できる「チーム力」が王者を決める展開。
今季もたっぷり堪能できました。また来季の開幕が楽しみです。
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